台所が政治を変える1-市長のあり方が生活の質を決める

私たちが日常生活をする上で、もっとも身近な政府である市町村(基礎的自治体)との関係がとても強いことが分かります。ほとんどの人たちが一生のうち県庁や国の府省に出かけていく用や機会はありません。県の機関であっても、パスポートを発行してもらうとか保健所にいくとかする以外、縁がありません。大体のことは市役所へ出かけることで、済んでしまいます。それは私たちの生活に関連する事務の大部分を市役所が行っていることを示しています。

政治の話でいえば、私たちはしばしば国の政治のことを口にします。マスコミの報道も国の政治に関連することが中心になっています。もちろんそれはそれで大切なことですが、もっと自分の暮らしている自治体のこと、自治体政治に関心を持つことが必要です。上に述べたように私たちの暮らしを支えているのは、基礎的自治体のはずです。特に地方分権改革が進んでくると「自分たちの地域のことは自分たちで決める。そして、自分たちの責任でそれを行う」ことが求められるようになるのですから、なおさらです。

基礎的自治体のあり方が私たちの「生活の質」を決めていくことになります。あるいは、市民一人ひとりが市政とどうかかわるか、人任せにしないで自分たちの地域を自分たちで創っていくためにはどうしたらいいのかといったことが、自治体と密接にかかわってきます。その重要な機会として市長選挙や市議会議員選挙があります。

もちろん、市長や議員にすべて任せるのではなく、日頃から市長をトップとする行政や自治体の意思を決めていく議会の動きに注目し、おかしなことや間違ったことがあれば、直接声をあげていくことが地域の民主主義にとって大切ことはいうまでもありません。遠い存在である国や県の政治とは違い、文字通り「身近な」政治として市政はあるはずですし、そうでなくてはいけないはずです。

とはいえ、日常的には議会と市長―行政の間で政治は行われています。その質が高いのかどうかがこれからの地域社会の方向を決めていくことになるのです。特に、人口減少、高齢化、地域産業の低迷、財政の縮小といった難しい課題が山積している今日、市をどうしていくのかについて真剣に考え、議論していくことのできる人たちを的確に選ぶことが何よりも重要なことになってきます。自分たちの選択がそのまま市のあり方を決定してしまうことになるという自覚を持って、選挙に臨むことが期待されています。

著者紹介・西寺雅也氏

名古屋学院大学経済学部総合政策学科教授
山梨学院大大学院非常勤講師
前多治見市長

本年3月まで、山梨学院大学教授として山梨を拠点に、北杜市内にも市民講座の講師として度々通われ、この地への理解も深い。