まちを学ぶシリーズ2 – こだわりの八ヶ岳の神々

八ヶ岳の中心は権現岳であり、二つに裂かれた巨石が御神体であることを前回述べた。

権現岳に八ヶ岳の祭神は、磐(いわ)長(なが)姫(ひめの)命(みこと)と八(やくさの)雷神(いかづちのかみ)である。『古事記』『日本書記』に神話に見られる神々である。なぜこの二つの神が祀られたのか。それは、二つに裂かれた巨石の姿こそ二つの神を象徴するものであった。神々の起こりは、八ヶ岳南麓の最初に定住した古代人の巨石の出会いから始まる。人々はどのような気持ちで巨石を感じたのか。その姿の神秘性と驚きから神の存在を感じ、二つに裂かれた巨石は神のなせる技であると信じられた。どのようにしてこの頂上に出現したのか。巨石の姿の由来を尋ねようと考えた。

古代人の謎解きである。権現岳山頂の巨石は、大地の中から生まれ出て来た。母なる大地から生命を生み出す力を宿す神の姿を想像した。狩猟・採集の豊穣・多産をもたらす山の神として巨石に対する信仰が生まれた。この磐石堅固な巨石のように永遠の生命を司る磐(いわ)長(なが)姫(ひめの)命(みこと)の神にたとえられ、権現岳の祭神の一つとなった。二つに裂かれた巨石のV字形は(写真参照)、古代人の狩猟生活において弓矢の形にイメージされた。その弓矢が天空から巨石に落ち二つ裂かれ、二つ裂かれた巨石は、大地の母なる神の<陰=ほと>に弓矢が当たった形と想像された。神話の世界のイザナミ命が火の神を産み、<陰=ほと>を焼かれて亡くなり、黄泉の国へ行くことになる。夫のイザナギ命が黄泉の国を訪ね、その時見た妻イザナミ命の体に取り付いた八つの雷の姿が八(やくさの)雷神(いかづちのかみ)である。八雷神が黄泉の国・死者の国の神となる。二つに裂けた姿が八雷神と連想され、祭神の一つに加えられた。

八ヶ岳の祭神・磐(いわ)長(なが)姫(ひめの)命(みこと)と八(やくさの)雷神(いかづちのかみ)は、神話の世界に彩(いろど)られた<死と誕生(再生)>の儀礼を司る神々であり。八ヶ岳南麓という限られた大地の息吹から誕生した神々であり。八ヶ岳南麓の大地に住む、人や動物の生命を育む豊かな地域を守り続けて来たこだわりの神々であった。

権現岳の二つに裂かれ巨石

⇧権現岳の二つに裂かれ巨石

(高福寺住職・水原康道)